3年にわたるパンデミック終息後初の「世界5大モーターショー」となる今年のミュンヘン自動車ショーは、かつてない注目を集めている。その大きな理由のひとつが、中国自動車メーカーの積極的な参加だ。
統計によると、今回のショーにはBMW、メルセデス・ベンツ、アウディ、フォルクスワーゲン、フォードなど欧米メーカーが参加する一方、日本や韓国のメーカーはほぼ全社が欠席。対照的に、BYD、アバタ、零跑(リープモーター)、小鵬(Xpeng)、賽力斯(Seres)、MG、東風汽車グループなど中国の完成車メーカーが出展したほか、億緯鋰能(EVE Energy)、地平線(Horizon Robotics)、億咖通(ECARX)、軽舟智航(QCraft)などバッテリー・ソフトウェア・ハードウェア関連企業も参加した。
中国メディアが「ドイツが舞台を用意し、中国が演じる」と揶揄すれば、米メディアは「ミュンヘンショーはもはやドイツのホームではなく、中国メーカーの個人ショーとなった」と報じた。欧州メディアも「BYDは主要市場を狙い、小売ネットワークを構築することで欧州への拡大を進めており、欧州ブランドにとって主要な脅威となるだろう」と指摘した。
上海モーターショーに続き、国際舞台から3年ぶりに復活した中国自動車ブランドは、再び世界の自動車業界の焦点となっている。ドイツのショルツ首相は開幕の挨拶で、中国メーカーの電動化への取り組みを評価しつつ、ドイツ企業に対し「中国からのEV競争に怯えるのではなく、むしろ刺激を受けるべきだ」と激励した。
出展企業の中でも、BYDは最大のブースを確保し、シール、宋PLUS EVチャンピオンエディション、ATTO 3(元PLUS)、ドルフィン、漢(Han)、デンジーD9の6車種を一挙に披露。BYDは世界で初めて完全に電動化に特化した自動車メーカーであり、世界の新エネルギー車販売台数でトップに立つ。2022年の販売台数は186万8500台に達し、2位のテスラを大きく引き離した。
調査会社MarkLinesによると、2023年上半期、BYDの世界新車販売台数は累計125万5600台で、メルセデス・ベンツやBMWを抜き、初めて「世界トップ10自動車メーカー」入りを果たした。これは中国自動車ブランドとして初の快挙であり、中国自動車産業史上初めて合弁ブランドの販売台数を上回った。
販売台数の急拡大に加え、収益力も向上。BYDの中間決算によると、2023年上半期の売上高は2601億2400万元(約5兆3000億円)で前年同期比72.72%増、純利益は109億5400万元(約2200億円)で同204.68%増となった。
この好調な利益の背景には、BYDの驚異的なコスト管理能力がある。ミュンヘンショー開催当日、UBS証券はBYDシールの分解調査レポートを発表。シールの部品の約75%を自社生産しており、テスラ・モデル3に比べて生産コストが15%低く、欧州で生産されるフォルクスワーゲンの同クラス車種に比べて約35%低いと分析した。
ルノーのルカ・デ・メオCEOも「中国車はEVバリューチェーンにおいて明らかに競争力がある」とコメント。BYDのコスト競争力は「攻守ともに可能にする」と評価されている。
9月6日、BYDはシールDM-iを発売、エントリーモデルの価格を17万元(約340万円)未満に抑え、メディアから「クオリティキング」と称され、合弁ブランドの中型車に圧力をかけている。
一方、海外市場ではBYDの価格は高級ブランド並み。ミュンヘンショーで発売されたBYD SEAL(中国市場でのシールEV相当)は、中国では18万9800~27万9800元だが、ドイツでは5万990ユーロ(約800万円)と4万4900ユーロ(約700万円)で販売されている。
BYD Europeの舒酉星(Shu Youxing)社長は「BYDの新エネルギー乗用車はすでに15の欧州諸国に進出し、英国、ドイツ、フランス、イタリア、スペインなどで140店舗以上を開設している」と述べ、欧州市場の深耕を継続する方針を示した。
欧州、特にドイツはBMW、メルセデス、アウディに加え、ポルシェ、ロールスロイス、ランボルギーニ、ブガッティなどの超高級ブランドを擁する自動車の聖地。市場は飽和状態で、最も攻略が難しい市場とされる。
BYDの欧州進出は「海外戦略」の重要な一歩であり、中国ブランドの海外展開を牽引する役割も期待される。
1. 15カ国に進出、累計145店舗:BYDの海外展開戦略
BYDの海外展開は、国内の成長軌道とほぼ同期している。2021年、国内販売が74万台超に急増したことを受け、2021年5月に乗用車の海外輸出を開始。第一弾はノルウェーだった。
2022年、世界初のガソリン車生産中止を宣言したBYDは、販売台数を186万8000台に伸ばした。同年2月にはオーストラリアでATTO 3の予約を開始。7月には日本市場への正式参入を発表。9月には欧州市場向けに漢EV、唐EV、ATTO 3を投入。11月にはブラジルで宋PLUS DM-iとATTO 3を発売。東南アジア、欧州、南北アメリカなどをカバーする。
2023年に入り、海外展開はさらに加速。3月にはヨルダン、ウズベキスタン、マドリードでブランド発表会を開催。タイでの乗用車生産拠点の起工式も行い、海外での完全子会社工場建設によるグローバル拡大に乗り出した。
BYDのブランド・広報部総経理である李雲飛(Li Yunfei)氏は、ミュンヘンショーでのインタビューで「わずか1年で、BYDはオランダのLouwman Group、ノルウェーのRSA、スウェーデンのHedin Groupなど、欧州の優良ディーラーと契約を結び、ドイツ、英国、スペイン、イタリア、フランス、オランダ、ノルウェーなど15カ国で多車種を展開、累計145店舗を開設した」と語った。
ドイツ国内だけでも、フランクフルト、ハンブルク、ケルンなど主要17都市の7つのディーラーと提携。李雲飛氏は、欧州市場拡大の3本柱を次のように説明する。
- 製品:1年で5車種を欧州投入。欧州消費者に魅力的な多様な選択肢を提供。
- 現地パートナーシップ:ディーラーに加え、サプライチェーンや産業チェーンのパートナーと協力し、バッテリー、モーター、電子制御などの技術革新を共有。下流パートナーと消費者向けサービス価値を共有。
- 現地化投資と人材:20年以上の海外経験を活かし、国際的なビジネス・管理チームを構築。現地市場の人材現地化を進めている。
2. 海外戦略の推進:グローバルな新エネルギー車企業へ
自動車の製品特性から、グローバル化こそが唯一の道である。中国ブランドの競争力向上に伴い、「海外進出」は中国が自動車強国になるための必須条件となっている。
BYDは日本や欧州といった「排他的」な市場にも浸透。欧州では地元メディアから高い評価を受けており、ATTO 3はイスラエルで9カ月連続販売台数トップ、ニュージーランドでもEV月間販売トップに輝いている。
2023年8月の乗用車輸出は2万5000台に達し、上半期の海外販売は7万4289台と前年通年を大幅に上回った。アナリストは2023年の輸出が25万台に達すると予測している。
BYDにとって、海外展開は販売と利益の向上だけでなく、グローバル自動車メーカーへの道である。
結び
BYDの王伝福(Wang Chuanfu)会長は「今は『大魚が小魚を食べる』時代ではなく、『速い魚が遅い魚を食べる』時代だ。今後3~5年で浮上できなければチャンスはない。中核技術、良い戦略方向性、迅速な意思決定が勝負の鍵だ」と述べている。
「海外戦略」はBYDの2大戦略の一つであり、危機意識と長期的発展の表れである。BYDはすでに「世界トップ10自動車メーカー」入りを果たし、さらなる高みを目指している。世界トップ3入りはいつになるのか、期待が高まる。